ライフサイクルコスト(LCC)とは

pixta_12635286_M 「ライフサイクルコスト(Life Cycle Cost)」とは、あるものが生まれてからなくなるまでに必要なコストのことです。不動産においては、対象物件の取得から売却、及び解体までに発生するすべての費用を総合したものを指します。

例えば、格安の中古物件があったとしましょう。相場を下回っていて利回りも高いのですが、築年数が古いため、近いうちに大幅な修繕が必要になりそうです。外壁、エントランス、廊下、水回り、ネット回線、ガス管など…。工事費用や点検費などの出費をシミュレーションしたところ「新築を買ったほうが安い」という結果になりました。

このように、不動産の中には、購入額は安いものの、そのあとに発生する費用を含めると支出が膨れ上がってしまう物件もあります。一時的な支出だけではなく、総支出に注目すべきというのがライフサイクルコストの考えです。
消耗品であれば、初期費用を比較すればお得かどうかわかります。しかし、不動産のように長期にわたって運用するものは、販売価格だけではなく、将来的に発生する費用をすべて総合しなければ比較することはできません。真の投資効率を知るためにも、不動産投資家はライフサイクルコストを正確に算出する必要があります。

ライフサイクルコストのほとんどは運用管理費

一般的に、建物にかかるライフサイクルコストは、以下の2つに分けることができます。

・設計・建設:いわゆるイニシャルコスト(初期投資額)
・運営・維持管理:いわゆるランニングコスト(運用管理費)

不動産投資においては、初期投資額を重視してしまう投資家の人も多いのですが、1棟のマンションを長期運用する場合、ライフサイクルコストに占めるイニシャルコストの割合は、全体の20~25%程度で、残りの75~80%はランニングコストといわれています。
マンションにおけるランニングコストは、大きく分けると運用費、一般管理費、保全費、修繕・更新費に区分することができます。具体的には以下のようなものが挙げられます。

・電気代などの水道光熱費
・エレベーターなど共用設備のメンテナンス費・改修工事費
・エアコンや給湯器交換など入居者の入れ替わりに伴う費用
・定期的検査・修繕費
・警備会社委託費などの警備費
・清掃会社委託費などの清掃費
・電球の交換などの消耗品コスト
固定資産税都市計画税などの税金
・火災保険料や地震保険などの保険料

マンションを一棟買いした場合、建物を長年にわたって維持していくために欠かせない外壁改修工事費や屋上防水工事費なども定期的に発生します。また、忘れてはならないのが「予期しない臨時的な費用」です。オーナーは建築費や購入費以外にも、これらすべての費用を投資不動産運用のコストとして認識する必要があります。

中長期的に収益を確保できる不動産投資を目指して

どのような建物であっても、投資用物件と長く付き合っていくためには「メンテナンス(定期的な検査・修繕)」が必要となります。

同じ不動産でも、自然物である土地であれば、維持管理や修繕にはそれほど気を付けなくてもいいかもしれません。地滑りや地割れの危険など、何か具体的な問題が生じそうなときに対症療法的に工作を加えて、安全性を維持すれば十分でしょう。

一方で、人工物である建物は、時が経つにつれて必ず劣化してしまいます。日本国内の建築基準は厳格なので、前触れもなくいきなり倒壊するような建物はまずありませんが、大きな地震などの揺れに耐える度に、見えないダメージが蓄積しているおそれがあるのです。

賃貸物件は、業務用・住居用を問わず、人が日常を過ごす生活拠点でもありますので、壁面がヒビ割れたり、床がわずかに傾いたりしても、不安を感じるものです。すると、資産価値が目減りして、家賃を下げてもなかなか入居者が確保できなくなり、不動産投資の継続もピンチに陥りかねません。

そのような事態を防ぐためには、投資用物件のライフサイクルコストを投資前に考慮した上で、メンテナンスに必要な資金を貯めておくようにするべきです。

大規模な工事が必要な建物の場合、解体や改築によって生まれ変わらせることができれば一番です。しかし、そのためのコストがかさむだけでなく、改築中は賃貸事業を行えませんから、大きな機会損失が生じてしまいます。住人に退去してもらっての解体や改築は、よほどゆとりのある限られたオーナーでなければ難しいでしょう。

一方、住民が住み続けられる上、物件の外観を維持しつつも、長寿命化させる大規模改修が可能な場合もあります。この方法を採ることができればコストも抑えられますし、機会損失も生じませんので、長期的な修繕計画を立てた上で費用を積み立てておくと良いでしょう。

また、時代の変化に応じて、人々の価値観も変わっていきます。安全性には問題がなくてもデザインが古びてしまったり、間取りが狭かったり無駄が多くなることによって、建物の資産価値が下がるケースです。このような場合は、しかるべきタイミングで内装のリフォームやリノベーションを行うことで居住性を高め、むしろ家賃設定を引き上げる根拠とすることもできるでしょう。

ランニングコストの節約が重要

投資効率を高める方法としては、レバレッジ(借入金を利用してより大きな投資をすること)をかけたり、リフォームや人気設備を導入して家賃を上げたりするなど、さまざまな方法があります。このような攻めの投資テクニックも重要ですが、さらに投資効率を高めたい場合は、ライフサイクルコストの大半を占めるランニングコストを圧縮する必要があります。

例えば、1億円のマンションAと9,000万円のマンションBがあったとしましょう。年間の賃料収入総額(満室時賃料)が同じで、空室率も同程度のときは、マンションBのほうがお得に見えます。しかし、マンションAの内外装には丈夫な素材が使われており、将来発生する修理費を大幅に節約できるとしたらどうでしょうか。

マンションA…30年間で8,000万円の修繕費(マンション価格1億円+8,000万円=1億8,000万円)
マンションB…30年間で1億2,000万円の修繕費(マンション価格9,000万円+1億2,000万円=2億1,000万円)

購入価格はマンションBのほうが1,000万円も安価でしたが、修繕費も含めたライフサイクルコストを見るとマンションAの投資効率が優れていることがわかります。

実際、外壁や天井部分、鉄部の塗り替えなどを一斉に行う大規模修繕工事では、建物の規模にもよりますが、多額の費用が発生します。これらの費用を節約できればキャッシュに余裕が生まれるのはもちろん、不動産経営も盤石なものとなるでしょう。

修繕費のほかにも、共用部分の照明を蛍光灯からLEDに変えて光熱費を下げたり、費用の安いセキュリティ会社に変更したりするなど、ランニングコストの節約にはさまざまな方法が考えられます。いずれも節約できる金額は小さいかもしれませんが、長期的には大きな効果が得られますから、見直し可能な部分をリストアップし、費用対効果を調べるといいでしょう。

ライフサイクルコストは適宜修正を

国土交通省の「平成25年度マンション総合調査」によると、大規模な計画修繕工事費を修繕積立金だけで調達できたマンションは66.9%でした。つまり、残りの約3分の1の物件は、ライフサイクルコストの把握ができていなかったということになります。

一般的に修繕積立金は、管理費の1割といわれていますが、設備の高度化、材料費の高騰などによってコストは年々増大しています。将来的に新工法・新材質の登場によって工事費が安くなるということも考えられますが、不動産投資家としては、コストが上昇するケースについても想定しておかなければなりません。
ライフサイクルコストは、地価の変動、需要の増減、社会経済の変化など、さまざまな要因によって変わってきます。当初の見通しとずれが生じた場合は、適宜修正するようにしてください。

建物のメンテナンスや環境保全に関する法律

 life-cycle-cost_01.jpg 建物は人々が暮らす場所ですから、物件の安全性・堅牢性を維持し、入居者が快適に過ごせるように「最低限の法的基準」が設けられています。以下に挙げる法律に違反したままにしていると、主管官庁から行政指導などが行われる場合がありますので、ご注意ください。

・建築基準法(国土交通省)
建築基準法は、建造物の構造や設備に関する最低基準を定めています。防火扉やエレベーターなどの定期的な点検、メンテナンスを義務付けている法律です。マンションやアパートは「特殊建築物」に分類されており、定期的な設備点検を定めています(具体的な運用は都道府県ごとに異なります)。
居住者の緊急避難が難しくなる高さ31m(11階相当)を超える高層マンション(高層建築物)の管理者に対して、消防法とは別に独自の防火対策(11階以上にスプリンクラーや火災報知器の設置、壁や床の耐火構造化、カーテンなどに防炎製品を使用など)を施すよう義務付けています。

・高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(国土交通省)
2006年に、物件の共用部分における、いわゆるバリアフリー設備に関して定めた法律が施行されました。出入口にスロープをつけたり、廊下に幅を持たせたりして、車椅子で移動する方や視覚障害のある方もスムーズに利用できる設備を整えているマンションには、ハートをかたどった認定シンボルマークを表示できます。

・浄化槽法(環境省・国土交通省)
浄化槽法は、水洗便所から出る「し尿」、並びに台所や浴室、洗濯機などから出る生活排水を処理する浄化槽の設置や、定期的な保守点検について定めた法律です。

・消防法(総務省)
消防法には、火災を予防、鎮圧する方針を定めることで、国民の生命、身体、財産を守ろうとする目的があります。消火設備や警報設備、避難設備などの定期点検・メンテナンスについて定めています。
マンションの共用部分、特に廊下や階段に住人の私物を置かないようにして、いざというときの避難路を確保する必要があります。また、ベランダも平時はその世帯が専用使用できますが、分類上は共用部分です。自室が火災に巻き込まれた際、隣の部屋へ避難できるよう、ベランダに私物を置きすぎないようにしなければなりません。

・建築物における衛生的環境の確保に関する法律(厚生労働省)
建築物における衛生的環境の確保に関する法律は、多数の人が使用・利用する建築物の維持管理に関して、環境衛生上必要な事項などを定めています。空調機の管理や受水槽の清掃、ネズミやゴキブリといった害虫や害獣の駆除などについて責任を負う、ビル管理技術者の資格者を置くよう義務付けています。ただし、マンションの場合は「床面積3,000平方メートル以上の商業施設が併設されている」場合を指していますので、この法律に該当するのは「低層階にスーパーマーケットが入居している物件」などに限定されます。

建築物を取り巻くさまざまな法律によって設備の設置や点検などを課せられることも、すべて不動産を維持管理、運営していく上でのコストです。投資しようとしている不動産に該当する法律の有無をしっかり調べ、これらに必要な経費も含めてライフサイクルコストを試算するようにしてください。

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