人口減少を背景とする地方経済の衰退で地銀の経営環境は厳しさを増しています。
地域密着の強みを発揮できなくなった現在でも、地銀は全国で106行(第二地銀含む)を数えます。
このうち、都心に複数支店を設置している地銀は約10行とみられています。
地銀が都心に支店を設置しているのは、これまでは
というのが目的といわれていました。
しかし、こうした消極的な都心進出では経営が立ち行かない状況が生まれてきました。
それについては、金融庁は2015年7月に発表した「金融モニタリングレポート」の「地銀の経営概況」の中で、以下のような衝撃的な試算結果を明らかにしました。
金融庁がレポートで警告した貸出業務の収益改善を図るためには、地銀は否応なく資金需要が旺盛な都心に攻勢をかけなければならない状況に置かれているのです。
このレポートを受けたと思われる象徴的動きが山口銀行と阿波銀行(徳島県)です。
2行は「毎日新聞」(2015年3月23日付朝刊)で「山口銀行は2月、高層マンションの建設が相次ぐ東京・豊洲地区のオフィスビルに豊洲支店をオープンした。
東京の中でも人口増加が目立つ同地区で住宅ローンや資産運用のニーズを取り込むのが狙いだ。
また、阿波銀行は横浜市に法人営業部を設けるなど、首都圏で中堅・中小企業や個人の資金需要を狙う動きを活発化している」と報じられています。
しかし、こうした道府県地銀の都心攻勢は自ずと都内を地盤にする地銀・信金との競争を激化させます。
このため、最近は金融業界内で「首都圏金融戦争」と呼ばれるほどの摩擦を生じています。
地銀が単なる貸出競争で東京地盤の地銀・信金と正面衝突しても、行き着く先は低金利競争であり、金融庁が警告した収益悪化を招くだけです。
そこで道府県地銀が都心攻勢で力を入れているのが、J-REIT、アパートローンなどの不動産投資向け融資といわれています。
道府県地銀の不動産投資向け融資は、実は都心の投資家を狙う動きだけではありません。
それぞれ地元の投資家に対しても営業を強化しているようです。
その狙いは相続税対策です。
2015年1月から相続税が増税されたことから、地方の資産家たちの間では相続税対策として都心の投資用不動産購入の動きが活発化しています。
そして地方の資産家が投資物件探しと物件購入の資金調達で頼りにするのが地元の地銀なのです。
地方経済の衰退で影響力が薄れたとはいえ、地銀は地方では今でも金融機関として圧倒的な存在感を持っています。
なぜなら都銀は地方の中核都市にしか支店を持っていないからです。
このため、地方の資産家の大半が地元地銀をメインバンクにしています。
その意味で、地銀は都心の投資用不動産取得営業では圧倒的な優位性を持っています。
そして地銀がこの利点を見逃すわけがありません。
しかし、都心に支店を開設しなければ、地元で投資用不動産取得営業ができないため、金融業界では「これが昨今の地銀の都心攻勢の背景になっている」とみられています。
地銀が、都心に支店を開設しなくても、投資用不動産情報の収集や地元資産家のサポートをするため、専門の担当者を都心に駐在させているケースは今や珍しくありません。
不動産業界関係者からも「都心の投資家と地方の投資家の物件取得競争が始まっている」との見方が出ています。