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後の賃貸経営で避けて通れない「民泊」の最新事情

世界中で6000万人が利用した民泊

「民泊」とは戸建て住宅やマンション住戸などを宿泊施設として利用する宿泊形態です。「民宿より手軽に開設できる新たな有料宿泊施設」という点が特徴です。訪日旅行客の急増による宿泊施設不足への対応、観光による地域振興の受け皿施設として注目を集めています。


不動産業界の一部では、戸建て住宅の空き家対策や賃貸マンションの空室対策として、民泊ビジネスに期待する声も上がっています。それに呼応し、地方自治体も対応に乗り出しています。


今回、大阪府で成立した民泊条例の骨子は、


●訪日旅行客の施設滞在期間は7日以上

●認定事業者の事務所や民泊施設への立ち入り検査実施

●宿泊者名簿作成の義務化

●罰則規定なし


などとなっています。


すでに条例が可決された大阪府で条例が適用されるのは、保健所設置市の6市(大阪市、堺市、高槻市、東大阪市、豊中市、枚方市)以外の市町村です。6市が大阪府と歩調を合わせるには各々独自に条例を制定する必要があります。


さて、今回の民泊条例成立を契機に民泊ビジネスが成長するのでしょうか。


民泊が注目され、民泊がなし崩し的に新しい宿泊施設ビジネスとして拡大している背景には、訪日旅行客の急増に既存宿泊施設の供給が追いつかないという問題があります。特に東京や大阪ではホテル、旅館の客室稼働率が80%を超え、予約を取りにくくなっているといわれています。


もう1つ、民泊が注目されているのには「シェアリングエコノミー(共有型経済)」の台頭と、これに対する日本の社会の認知度向上が背景にあるとみられます。シェアリングエコノミーとはソーシャルメディアの発達により可能になったモノ、カネ、サービスなどの交換・共有により成り立つ経済の仕組みのことで、その典型が近年、新ビジネスとして急成長している「カーシェアリングサービス」です。


このシェアリングエコノミーの旅行業界版といえるのが民泊ビジネスです。その草分け的なサービスが2008年に米国でAirbnb社が運営を開始した民泊情報サイト「Airbnb(エアビーアンドビー)」です。


これは「ホスト」(居住用住宅を宿泊施設として提供する貸主)と「ゲスト」(宿泊先として居住用住宅を求める旅行者)の個人間取引をWebサイト上で仲介し、その手数料を稼ぐマッチングビジネスです。現在は世界最大の民泊情報サイトとして知られています。


同社の日本語版公式サイトの説明によると、現在世界190か国・3万4000以上の都市で約200万件のホストが登録。累積ゲスト数は6000万人を超えるとしています。日本でも約2万件のホストが登録しています。

法整備ないまま既成事実で先行したビジネス

民泊ビジネスはこうした民泊情報サイトの出現と民泊需要の拡大により、それが法制化されないまま既成事実先行の形で、世界的規模で急成長しているのが現状です。


しかし、既成事実先行のビジネスモデルのためか、発祥地の米国でも民泊ビジネスを合法化しているのは6州に止まり、欧州では合法化している国と非合法にしている国に分かれています。こうしたことから、一部の旅行者の支持を受けて急成長していても、旅行者全体の社会的信頼性を確立したビジネスではないといえます。


国内でもAirbnbに追随した「TOMARERU」、「とまりーな」などの民泊情報サイトがオープンしています。


前者は賃貸住宅仲介の「エイブル」とインターネットサービスの「TOMARERU」の業務提携で2014年秋から開始したマッチングサービス。全国主要6都市で訪日旅行客に空き家・空室情報を仲介する民泊ビジネスです。


後者は地方の農家、漁師の家、古民家などへの民泊情報を仲介する「田舎体験宿泊型」のマッチングサービスです。中高年に人気といわれる「グリーンツーリズム」向けの民泊ビジネスといえます。こちらは2014年3月からサイトをオープンしています。


民泊には訪日旅行客の急増に伴う宿泊施設供給、空き家・空室の有効活用などに加え、旅行客にとっては単なる名所巡りやグルメ経験だけではなく、地方の多彩な文化や暮らしに触れ、「旅行先の生活の擬似体験ができる」という魅力もあります。

このため、地方自治体では民泊を新たな観光資源として活用し、地方観光の付加価値手段として民泊ビジネスを振興しようとの気運も高まっています。

事故が発生したら巨額賠償の可能性も

民泊は旅館業法が想定していなかった新しいビジネスであることから、旅館業法上の無許可営業抵触、土地利用規制違反や脱税、安全・衛生管理上の問題、既存宿泊業者との公正競争の確保をめぐる問題などが懸念されています。


不動産業界でも不特定多数の人間の出入りやごみ・騒音をめぐるトラブル発生によって引き起こされるマンションの資産価値の低下、賃貸マンション経営者に無断で行われている住戸の又貸し横行、他人名義の宿泊による不法滞在など、さまざまな問題が懸念されています。


近隣住民にとっても、不特定多数の人間が出入りすることへの治安上の不安、不審者への脅えなど地域の生活環境に悪影響をもたらすとの心配が拭えないようです。このため、マンション管理規約に「民泊禁止」の条項を設ける動きもあります。


民泊問題に関して厚生労働省は「居住用住宅を他人に有料で宿泊させるのであれば、当然旅館業の許可を受ける必要がある」との見解を示し、民泊ビジネス振興には消極的とみられています。


また、旅行業界で問題視されているのが、法制上の民泊ビジネスの位置づけの曖昧さです。


有料宿泊施設の業法である旅館業法では、有料宿泊施設の業態をホテル、旅館、簡易宿所(民宿、カプセルホテル、ユースホステルなど)、下宿の4つに分け、業態ごとに営業許可要件を定めています。


例えば、ホテルの場合は客室10室以上、旅館と簡易宿所は5室以上が必要で、いずれも玄関帳場(フロント)の設置が義務付けられています。下宿は客室数の定めはありませんが、旅館業法で「施設を設け、1か月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて人を宿泊させる営業をいう」と定義、「客室の延べ床面積は33平米以上」と規定しています。


このため、「民泊施設がホテル、旅館、簡易宿所の営業許可を取るのは規模的に困難。下宿も1か月単位の滞在期間が必要なので、そもそも民泊になじまない」(旅行業界関係者)との声も聞かれます。


さらに、Airbnbに代表される民泊情報サイトの法制上の位置づけも曖昧です。


民泊情報サイトは物理的な宿泊施設の提供や斡旋をしておらず、宿泊施設情報を仲介しているだけなので、旅館業法の規制を受けず、旅行代理店のように旅行業法の規制も受けません。そのため、自治体が大阪府のように「民泊条例」を制定しても、民泊ビジネスの法制上の曖昧さが解消されるわけではないのです。


いずれにしても国も自治体も、民泊の実態を把握できていないのが実情です。「ルール作りや実情把握を置き去りにして、条例化などの民泊ビジネス振興策だけが独り歩きしようとしている。もし、民泊営業をしているマンションで火災、感染症、人身事故、犯罪などが発生したら、その被害を誰が宿泊客に補償するのか。相手が外国の訪日旅行客だけにオーナーは巨額の賠償請求をされる可能性もある」と不動産業界関係者は指摘しています。

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